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大阪地方裁判所 昭和55年(ワ)8664号 判決

原告 倉本義晴

右訴訟代理人弁護士 中野公夫

右同 藤本健子

被告 破産者 産陽商事株式会社

破産管財人 浜田行正

右訴訟代理人弁護士 浦田萬里

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1. 原告が、破産者産陽商事株式会社に対し、二億一七〇〇万円の破産債権を有することを確認する。

2. 訴訟費用は、被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二、当事者の主張

一、請求原因

1. 破産者産陽商事株式会社(以下、「破産会社」という。)の手形行為

破産会社は、別紙約束手形目録(一)記載(1)ないし(3)手形(以下、同目録記載の番号にあわせて「第(1)手形」などという。)に、それぞれ支払拒絶証書の作成を免除したうえ裏書をし、その余の本件各手形(第(4)ないし第(10)手形)を振出して、右手形すべてを熊谷孝に交付した(第(1)ないし第(6)手形は割引きを依頼して交付)。

なお、第(7)ないし第(10)手形の受取人欄の熊谷悦孝は、熊谷孝の通称名である。

2. 第(1)ないし第(6)手形の実質的権利移転(右各手形については、裏書の連続による資格授与的効力の主張をしない。)

(一)  原告は、熊谷から第(1)ないし第(6)手形の割引き依頼を受け、右各手形を次のとおり割引き、同人から各手形の交付を受けた。

(1) 同年四月一九日、第(1)及び第(2)手形を各二七八万〇四〇〇円で、第(3)手形を二二八万七〇〇〇円で

(2) 同年五月一五日、第(6)手形を二六一万五二〇〇円で

(3) 同月三一日、第(4)手形を二六〇万一七六〇円で、第(5)手形を二六五万六四〇〇円で

(二)  原告は、第(1)ないし第(3)手形を、株式会社三和銀行に対して隠れた取立委任裏書をなし、三和銀行により各支払呈示期間内に、右各手形を手形交換に廻したが、いずれも支払いを拒絶されたため、原告は、右各手形の返還を受けた(遡求権の確保)。

(三)  原告は、熊谷に対し、その後、第(1)ないし第(6)手形を譲渡した。

3. 破産宣告と熊谷の破産債権届出

(一)  破産会社は、昭和五三年六月二六日、大阪地方裁判所において破産宣告を受け、被告がその破産管財人に選任された。

(二)  熊谷は、当時、第(1)ないし第(10)手形を所持していたので、同手形債権を破産債権として届け出たが、被告は、債権調査期日において、右届出債権全額につき異議を述べた。

4. 熊谷から原告への権利移転

(一)  熊谷は、株式会社シヨーマに対し、昭和五四年二月九日、右届出債権全額を譲渡して、本件各手形を交付した。

(二)  原告は、シヨーマから、同年三月二〇日、右届出債権全額を譲り受け、本件各手形の交付を受け、現に同手形を所持している。

よって、原告は、本件各手形債権の合計二億一七〇〇万円の破産債権を破産会社に対し有することの確認を求める。

二、請求原因に対する認否

1. 請求原因1の事実は認める。

2. 同2.について

(一)  同(一)の事実は否認する。

(二)  同(二)の事実は不知。

(三)  同(三)の事実は不知。

3. 同3.の事実は全て認める。

4. 同4.の事実は全て不知。

三、抗弁

1. (第(1)ないし第(6)手形に関し)

破産会社は、熊谷に対し、第(1)ないし第(6)手形の割引を依頼して右各手形を交付した。

よって、被告は、破産債権届出者である熊谷に対し右割引金の交付を受けるまではその無権利を主張しうるものであるから、右各手形の支払呈示期間が経過した後に右各手形を熊谷からシヨーマを得て取得したという原告に対しても、同様の主張をなしうるものである。

2. (第(7)ないし第(10)手形に関し)

破産会社は、熊谷に対し、第(7)ないし第(10)手形を、破産会社が熊谷を通じて割引を受けた他の手形に不渡りなどの事故が発生して熊谷が割引人たる第三者に対し同社の連帯保証人として債務を負担した場合の保証として、交付した。

よって、被告は、破産債権届出者である熊谷に対し、同人が連帯保証人としての債務を負担するまではその無権利を主張しうるものであるから、右各手形の支払呈示期間が経過した後に右各手形を熊谷からシヨーマを経て取得したという原告に対しても、同様の主張をなしうるものである。

四、抗弁に対する認否

抗弁1.の事実は認めるが、同2.の事実は否認する。

なお、熊谷は、破産会社から、第(6)手形を昭和五三年三月三日に、第(4)及び第(5)手形を同年四月二日に、第(1)ないし第(3)手形を同月三日に、いずれも割引条件日歩一五銭で割引の依頼を受けて受領したのである。

五、再抗弁

1. (抗弁1.に対し)

熊谷は、破産会社に対し、第(1)ないし第(6)手形の割引金として、各手形金額から日歩一五銭の割合による割引料を差し引いた残額を、次のとおり交付した。

(一)  第(1)ないし第(3)手形につき、いずれも同年四月一九日、破産会社宛銀行送金により

(二)  第(6)手形につき、同年五月一五日、破産会社の経理担当従業員であった南水君江に直接交付するか、もしくは、破産会社宛銀行送金により

(三)  第(4)及び第(5)手形につき、同月三一日、第(6)手形と同様の方法により

2. (抗弁2.に対し)

(一)  熊谷は、破産会社に対し、別紙手形貸付金一覧表記載のとおり、七八回に亘って、合計二億一一九三万四〇八〇円を貸し渡し、また、これとは別に、左記のとおり手形貸付をなし、これらの手形貸付金を保証するため、第(7)ないし第(10)手形を受け取った。

(1) 昭和五三年四月三日、別紙約束手形目録(二)記載(イ)の手形(以下、同目録記載の手形を表示するときは、目録記載の番号にあわせて、「(イ)手形」などという。)を担保として手形貸付することを約し、破産会社の指図に従い、同月四日、うち一一五〇万円を同社東京支店長に銀行預手で交付し、うち二〇〇〇万円を同社に、うち八七六万二〇〇〇円を高津地所株式会社に、うち一〇〇〇万円をシヨーマに、うち一六〇〇万円を大協化学株式会社に、それぞれ送金した。

(2) 同年三月三日、(ロ)及び(ハ)手形を担保として一六〇〇万円を貸し付けた。

(3) 同月二五日、(ニ)及び(ホ)手形を担保として六九万五六〇〇円を貸し付けた。

(4) 同年四月一日、(ヘ)ないし(ル)手形を担保として一五七二万五〇〇〇円を貸し付けた。

(5) 同月一九日、(ヲ)及び(ワ)手形を担保として五九一万五二〇〇円を貸し付けた。

(6) 同年五月一日、(カ)手形を担保として一〇二万一一九一円を貸し付けた。

(7) 同月九日、(ヨ)手形を担保として一二三万八〇〇〇円を貸し付けた。

なお、(2)ないし(7)の貸付を行う際も、(1)におけると同様、貸付金は、破産会社の指図に従って、交付もしくは送金したものである。

(二)  熊谷は、破産会社から依頼を受けて東京商事株式会社に手形を割引いてもらったところ、その手形が不渡りとなったため、同社から割引依頼者としての責任を追及されて二七〇〇万円を支払った。

したがって、熊谷は、破産会社に対し、二七〇〇万円の求償権を有している。

六、再抗弁に対する認否

再抗弁事実は全て否認する。

第三、証拠〈省略〉

理由

一、請求原因1.及び3.の事実(第(1)ないし第(10)手形に破産会社が手形行為をなし、その後、破産会社が破産宣告を受けて被告がその破産管財人に選任され、熊谷が右各手形債権を有するとして破産債権の届出をしたが、被告は右届出債権全額につき異議を述べたこと)は当事者間に争いがなく、同4.の事実(右届出債権が熊谷からシヨーマを経由して原告に譲渡されたこと)は、いずれも成立に争いのない甲第二四及び第二五号証(いずれも債権譲渡通知書)により、また、同2.(二)のうち、三和銀行が第(1)ないし第(3)手形を、その支払呈示期間内に、手形交換の方法により支払呈示したが、いずれも支払拒絶されたことは、成立に争いのない甲第一ないし第三号証(いずれも約束手形)により、それぞれこれを認めることができる。

二、抗弁1.の事実(破産会社が、熊谷に対し、第(1)ないし第(6)手形を、割引を依頼して交付したこと)は当事者間に争いがない。

そこで、熊谷が、破産会社に対し、右各手形の割引金を交付したのか否か(再抗弁1)について検討するに、証人熊谷孝の証言(第一回)中には、自分は右各手形の割引金を破産会社に交付した旨供述する部分があり、また、同証言(第一回)により成立を認める甲第二六号証(手形明細書)中には、第(1)及び第(3)手形を昭和五三年四月一九日に第(2)手形を同年五月一日に、第(6)手形を同月一五日に、それぞれ割引いたとの記載があり、さらに、同証言(第一回)により成立を認める甲第二七号証(帳簿)中には、右各手形について同様の記載があるほか、第(4)及び第(5)手形についても同月三一日に割引をした旨の記載がある。

しかしながら、右熊谷証言(第一回)及び証人茂野素男の証言を総合すると、熊谷は、破産会社を含む数社からなる資金調達グループのために、同グループが持込んだ手形の換金事務を行っていたが、その際、「割引元が、一通の手形を割引くには、それと同金額の他社振出の手形を保証手形として交付するよう要求している。」などと述べ、その結果、同グループは、資金要調達額に相当する手形以外に、これと同額の破産会社など他社振出にかかる手形を、右要求に従って熊谷に交付し続けていたこと及び第(1)ないし第(6)手形の割引先であるという原告と熊谷は、産裕物産株式会社の共同代表取締役という仲であることが、また、茂野証言によると、茂野は、遅くとも昭和五三年四月ころから、破産会社の帳簿の整理にとりかかり、同社が破産宣告を受けた(昭和五三年六月二六日)後もそれを続けたが、同社が熊谷に交付した手形のうち、どれが現実に割引かれたのかを解明することは遂にできなかったことが、それぞれ認められる(右認定を左右する証拠はない。)ところ、前掲甲第二六及び第二七号証中には、昭和五三年四月一九日には金額合計一億三五九九万九二五七円分の、同年五月一日には同五二六六万三三四一円分の、同月一五日には同四二五八万九二五九円分の、同月三一日には同二四二一万二七二八円分の、いずれも相当額及び数に及ぶ手形を割引いたとの記載があるのに、成立に争いのない甲第四七号証の一及び第四八号証の一ないし四(いずれも振込金受取書)及び熊谷証言(第二回)によれば、熊谷は、同年四月一九日には破産会社宛に七〇〇〇万円を、また、同年五月一日には、右資金調達グループの一員であった株式会社シヨーマ、大協化学株式会社、株式会社ビガー及び大平鋳工株式会社に合計三一三〇万円を、いずれも銀行振込の方法により送金したことが認められるものの、それ以外の割引金が破産会社などに交付されたことを裏づける領収書や振込金受取書などの証拠はなく、また、右送金がどの手形の割引金に相応するのかを特定する証拠も存せず、さらに、熊谷は、第一回尋問において、右割引を実行したとする手形のうち、昭和五三年六月一四日までに実行した分については、各手形に対応する保証手形がどれであるかを特定できる旨明言しているのに、そのような証拠はもとより、保証手形として預った手形にどのようなものがあるのかを示す証拠すら存しないから、熊谷証言や甲第二六及び第二七号証中の前記供述ないし記載部分は、たやすく措信し難いものといわざるをえない。

そして、他に、第(1)ないし第(6)手形の割引金が破産会社ないしその指示する者に交付されたことを認める証拠はない。

そうすると、右再抗弁1.は理由がなく採用できない。

三1. 抗弁2.の事実(破産会社が熊谷に対し、第(7)ないし第(10)手形を、同人が破産会社のために連帯保証債務を負担することを条件にその保証として交付したこと)は、熊谷証言(第一、二回)及びこれにより成立を認める乙第一号証(預り証)並びに茂野証言を総合することにより認められ、証人高津一久の証言中、右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らし到底措信できず、他に右認定に反する証拠はない。

2.(一) 原告は、熊谷が破産会社に対し別紙手形金一覧表記載のとおりの手形貸付をなし、また、これとは別に、(イ)ないし(ヨ)手形の手形貸付をなし、その保証として第(7)ないし第(10)手形を受取ったと主張する(再抗弁2(一))。

しかしながら、第(7)ないし第(10)手形は、前記1.に認定したように、熊谷が割引元から連帯保証の責任を追及された場合の保証のために振出されたものであるから、右主張事実だけでは、何ら右各手形の原因債権とはなりえないうえ、右主張にかかる手形貸付の事実自体もこれを認めることはできないのである。

すなわち、熊谷が破産会社に対し、別紙手形貸付金一覧表記載の手形貸付をしたとの事実については、前掲甲第二七号証中には、これに沿うかの如き記載部分があるが、高津証言によれば、破産会社は昭和五三年六月一五日、大阪地方裁判所に対し自己破産の申立をして事実上倒産したことが認められるのに、右甲第二七号証中には、同日以降も手形割引を継続していたことを示す記載があることや、茂野証言によれば、茂野は、破産会社の帳簿の整理にとりかかった後、右帳簿に全く記載のない手形について、熊谷から、それを割引いたとの報告書が送られてきているものが相当多数あることに気づき、また、破産会社の東京支店の経理担当従業員であった南山からも、自分が知らない間にどんどん手形が動いて困るとの苦情を受けたことが認められる(右認定を左右するに足る証拠はない。)ことなどに照らすと、熊谷は、破産会社以外の者からも直接に手形割引ないし手形貸付の依頼を受け、これをも甲第二七号証に記載していたのではないかとの疑いを強く抱かずにはいられないところ(したがって、熊谷証言(第一、二回)中、この点に関し供述する部分はたやすく措信し難い)、右手形貸付が破産会社の依頼によりなされたことを明確ならしめる証拠は存しないから、甲第二七号証中の前記記載部分だけでは、到底右手形貸付の事実を認めることはできないというほかない。

また、その余の手形貸付については、熊谷証言(第二回)中には、(イ)ないし(ヨ)手形を破産会社の依頼により割引いたとの供述部分があるが、(1)熊谷は、第一、二回の尋問において、破産会社から割引依頼を受けた手形で、原告などの第三者に持込んで割引いてもらったものについては、前掲甲第二六及び二七号証の各帳簿に必ず記入するようにしていたと供述するのに、右各書証のいずれにも、(イ)ないし(ホ)手形を割引いたとの記載がなく、特に、(イ)手形については、熊谷は、第二回尋問において、自己の資金で割引いたものであるから右各書証に記載がない旨供述しており、そうすると、(イ)手形はもとより、(ロ)ないし(ホ)手形についても、同人が割引先に対し連帯保証責任を負う関係にはない手形であると窺われること、(2)(ニ)ないし(ヨ)手形については、右各書証中に記載があるが、右各書証の記載内容の真実性や甲第二七号証中に割引をしたとして記載された手形が全て破産会社の依頼に基づくものであるかどうかに多大の疑問があることはこれまでみてきたとおりであり、また、熊谷証言(第一回)によれば、甲第二七号証は甲第二六号証の手形明細書に基づき作成したものであるというのであるから、甲第二七号証についての右疑問点は、そのまま甲第二六号証にもあてはまるうえ、手形貸付をなすにあたっては依頼者に手形上の債務を負担させるようにするのが通常であり、現に、第(1)ないし第(10)手形については、いずれも破産会社が振出人もしくは裏書人となっているのに、(ニ)ないし(ヨ)手形については((イ)ないし(ホ)手形も)、このような事実を認める証拠はないこと、などに照らすと、熊谷の前記供述部分はたやすく措信し難く、他に、右手形貸付の事実を認めるに足る証拠はないのである。

したがって、再抗弁2.(一)は、到底採用できないものというほかない。

(二) 原告は、熊谷が、破産会社から依頼を受けて東京商事株式会社に割引いてもらった手形が不渡りとなったため、同社から割引依頼者としての責任を追及されて二七〇〇万円を支払った旨主張し(再抗弁2.(二))、成立に争いのない甲第二八号証(和解調書)によれば、熊谷が同社に和解金として同額を支払う旨の裁判上の和解が成立したことが認められるところ、熊谷証言(第一回)中には、右和解の基礎となった債務は原告主張のとおりであって、自分は右和解金を支払ったと供述する部分があるが、右甲第二八号証では、何時、いかなる手形を破産会社が熊谷に割引依頼したのか不明であり、ましてや、その手形について割引金が破産会社に交付されたかどうかを裏づける証拠も全くないこと、これに加え、和解金の支払いを裏づける領収書等の証拠も存しないことに照らすと、熊谷の右供述部分はたやすく措信し難いものといわざるをえない。

そして、他に、右主張事実を認めるに足る証拠はない。

そうすると、再抗弁2.(二)も理由がなく採用できない。

四、以上の次第で、本訴請求は、爾余の諸点について判断するまでもなく理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中田耕三 裁判官 松永眞明 始関正光)

〈以下省略〉

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